税務調査で最も重要視される「増減分析」とは?前年比較で9割が決まる理由

「今年の売上は順調でした」

そう報告する企業に対して、税務調査官はこう切り返します。

「前年と比べて、どのくらい増えましたか?その理由は何ですか?」

実は、税務調査において調査官が最も重視するのは、数字の絶対値ではなく「前年からの変化」です。2024年度の国税庁の方針でも、資料情報を多角的に分析し、不正な税負担逃れに対して厳正な調査を実施することが明示されています。

本記事では、なぜ増減分析が税務調査の核心なのか、どんな変動が危険信号となるのか、そして企業がどう備えるべきかを、実務経験に基づいて解説します。

なぜ調査官は「増減」にこだわるのか?

税務調査官の思考プロセスは極めてシンプルです。

「この数字の変動には、合理的な説明がつくか?」

企業の決算書を見る際、調査官は必ず前期との比較表を作成し、主要科目の増減率をチェックします。なぜなら、急激な変化には必ず理由があり、その理由が不明瞭であれば「何かを隠している」と疑われるからです。

2024年以降、コロナ禍の制限がなくなり、税務調査の件数と厳しさが大幅に増加しています。調査官は限られた時間で効率的に問題点を見つける必要があり、増減分析はその最も有効な手段なのです。

調査官が必ずチェックする5つの増減ポイント

1. 売上高の異常な増減

前年比30%以上の変動は、ほぼ確実に質問対象となります。

急増の場合:

  • 売上計上基準が適切か
  • 架空売上や期ズレはないか
  • 請求書と入金の整合性

急減の場合:

  • 売上除外の可能性
  • 経費の異常な増加
  • 意図的な利益調整

実例: あるIT企業が前年比50%の売上増を記録した際、調査官は「具体的にどの案件が増えたのか?」「営業人員は増えたか?」「広告費は増えているか?」と連続質問し、売上増加の整合性を徹底的に検証しました。

2. 外注費の変動

外注費は架空計上の温床とされ、税務調査で最も厳しくチェックされる科目の一つです。

危険な兆候:

  • 前年比で倍増している
  • 契約書や成果物が不明瞭
  • 支払先が個人事業主ばかり
  • 振込先が頻繁に変わる

調査官は必ず以下を確認します:

  • 業務委託契約書の存在
  • 納品物・成果物の実在性
  • 請求書の妥当性
  • 支払の事実確認

3. 交際費・広告費の不自然な変動

これらの科目は「経費にしやすい」ため、利益調整に使われがちです。

例えば:

  • 交際費が前年の3倍に増加 → 内容の精査
  • 広告費が急増したのに効果測定なし → 実態の確認
  • 毎年12月だけ急増 → 期末調整の疑い

4. 棚卸資産の増減

期末在庫の計上は、利益を直接左右します。

調査官の視点:

  • 前年比で在庫が30%減 → 過少計上の疑い
  • 売上増なのに在庫減 → 不自然
  • 在庫回転率の異常 → 架空在庫や廃棄漏れ

実地棚卸の記録、在庫管理表、前年との比較が必須となります。

5. 役員報酬の変更

役員報酬は原則として年度途中で変更できません。

増加した場合:

  • 利益調整の可能性
  • 定期同額給与のルール違反

減少した場合:

  • 銀行評価対策の疑い
  • 実質的な賞与の可能性

役員報酬の変更には合理的な理由が必要で、説明できない場合は税務調査で深掘りされます。

「異常な変動」として警戒される具体例

ケース1:利益率の大幅変動

状況: 前年は営業利益率8%だったのに、今年は3%

調査官の疑い:

  • 経費の過剰計上
  • 売上の期ズレ
  • 棚卸資産の操作

製造業なら原価率、小売業なら粗利率など、業種特有の指標との比較も行われます。

ケース2:外注費が売上増を上回る

状況: 売上20%増、外注費80%増

調査官の判断: 「これは不自然。外注依存度が急激に上がるには、組織変更など明確な理由が必要」

契約書、成果物、メールのやり取りまで提示を求められます。

ケース3:売上と仕入のアンバランス

状況: 仕入が30%増、売上が10%増

調査官の疑念:

  • 在庫が増えているはずだが、計上されているか?
  • 売上が漏れているのでは?

ケース4:雑費の急増

雑費は「何でも入れられる科目」として悪名高い存在です。

前年50万円→今年300万円

このような場合、調査官は雑費の内訳を全件チェックし、本来別科目で計上すべき経費がないか確認します。

ケース5:福利厚生費と従業員数の不一致

状況: 従業員10名で福利厚生費500万円

調査官の判断: 「一人当たり50万円は高すぎる。社長の家族旅行を福利厚生費にしていないか?」

調査官は必ず「変動の理由」を聞く

数字の変動自体は問題ではありません。問題は説明できるかです。

良い回答例:

調査官: 「交際費が前年の2倍になっていますが?」

経営者: 「4月に営業部を3名増員し、新規開拓を強化したためです。こちらが営業日報と交際費の支出一覧です。主要取引先との商談記録もあります」

これなら問題なし

悪い回答例:

調査官: 「広告費が急増していますが?」

経営者: 「特に理由はないですね…」

深掘り確定

企業が今すぐできる「増減分析」の準備

ステップ1:主要科目の前年比較表を作成

最低限、以下の科目は準備:

  • 売上高
  • 売上原価
  • 外注費
  • 人件費
  • 交際費
  • 広告宣伝費
  • 地代家賃
  • 減価償却費
  • 役員報酬
  • 雑費

ステップ2:変動理由を文書化

記載すべき内容:

  • なぜ変動したか(組織変更、市場環境、戦略転換)
  • いつから変動したか(時系列)
  • 変動の根拠資料(契約書、採用記録、議事録)

例:

【外注費増加の理由】
・2024年5月:内製からアウトソーシングへ方針転換
・理由:人材確保難と専門性向上
・主要委託先:A社(契約書添付)、B社(契約書添付)
・成果物:システム開発案件3件(納品物リスト添付)

ステップ3:証拠資料のセット化

外注費なら:

  • 契約書
  • 請求書
  • 成果物(またはその写真・記録)
  • メールのやり取り
  • 振込記録

交際費なら:

  • 領収書
  • 参加者リスト
  • 商談議事録
  • 契約につながった実績

ステップ4:税理士との事前協議

回答内容を税理士と事前に統一することが極めて重要です。

チェック項目:

  • 社長と税理士で説明が一致しているか
  • 会計処理の根拠は明確か
  • 資料は揃っているか

2024年以降の税務調査は、着手から終了まで7〜10ヶ月かかるケースが増えており、長期戦に備えた準備が必要です。

「変動がない」企業も実は危険

意外かもしれませんが、毎年まったく同じ数字の企業も調査官は警戒します。

理由: 「実態として、売上も経費も全く変わらないことはあり得ない。前年コピーの可能性がある」

特に以下のパターンは危険:

  • 売上が3年連続でほぼ同額
  • 交際費が毎年きっちり100万円
  • 消耗品費が毎月同額

適度な変動があり、その理由が説明できる状態が最も健全です。

まとめ:増減分析は税務調査対策の核心

2024年1月から電子帳簿保存法が完全義務化され、企業のデータ管理はより厳格になりました。これは税務調査においても、より精密な増減分析が可能になったことを意味します。

税務調査の流れ:

  1. 増減のチェック
  2. 理由の確認
  3. 実態の検証

企業が増減の理由を明確に説明できれば、調査の70%以上はスムーズに進みます

今日から始める3つの対策

  1. 前年比較表を四半期ごとに作成
  2. 主要な変動は即座に文書化
  3. 証拠資料をデジタルで整理保管

税務調査は、準備した企業が圧倒的に有利です。増減分析への対応を整えることで、無用な追徴課税を防ぎ、健全な企業運営を実現できます。