企業が気づかない”税務上のNG行為”

~調査官が「これは危ない」と判断する12のケース~

税務調査で追徴課税となる企業の多くは、意図的な不正をしているわけではありません。むしろ、「知らないうちにNG行為をやってしまっている」ケースがほとんどです。

本記事では、税務署が「これは危ない」と判断する典型的なNG例を、12のカテゴリに分けて具体的に解説します。中小企業の経営者が「知らなかった」では済まされない重要なポイントばかりです。

NG行為①:売上計上のタイミングがバラバラ

企業が最もやりがちなミスがこれです。

よくある問題例

  • 納品済みなのに売上を計上していない
  • 請求書未発行で翌月に回す
  • 役務提供完了日と計上日が一致しない
  • 「今月は利益が出すぎたから来月に回そう」という調整

売上計上のタイミングは、税務調査で必ず深掘りされる論点です。

【実例】ある卸売業D社のケース

D社は決算月の3月に大口の納品がありましたが、「請求書がまだだから」という理由で4月に売上計上しました。しかし税務調査で「納品書があり、実質的に取引は完了している」と指摘され、期ズレとして修正申告を求められました。追徴税額は約180万円でした。

対策

売上計上基準を明文化し、全社で統一しましょう。納品基準、検収基準、役務提供完了基準など、自社のルールを決めて文書化することが重要です。

NG行為②:過度な利益圧縮

決算月に突然、以下のような処理をすると不自然だと判断されます。

  • 広告費の急増
  • 修繕費のまとめ計上
  • 在庫評価減の一括処理

節税のつもりでも、経済合理性が説明できなければ、否認されるリスクが高まります。

【ポイント】 「今期は利益が出たから経費を増やそう」という発想自体が危険です。経費は事業に必要だから使うものであり、利益調整のために使うものではありません。

NG行為③:経費区分の誤り

これは非常に多い間違いです。

典型的な誤り例

  • 会議費で飲酒(実態は接待)
  • 福利厚生費なのに一部従業員だけが恩恵(役員と幹部社員だけの食事会など)
  • 広告宣伝費でお歳暮(実態は交際費)
  • 研修費で観光旅行

税務調査では、経費の「名目」ではなく「実態」で判断されます。

【実例】ある不動産会社E社のケース

E社は取引先との食事を全て「会議費」で処理していましたが、税務調査で内容を確認されると、ほとんどが接待目的でした。会議費は交際費に振り替えられ、損金不算入額が発生。追加で約120万円の法人税を納付することになりました。

対策

交際費・会議費・福利厚生費の区分基準を明確にし、社内で共有しましょう。

参考:交際費と会議費の区分

  • 1人あたり5,000円以下かつ全員が業務に関係→会議費
  • 1人あたり5,000円超、または接待目的→交際費

NG行為④:電子帳簿保存法への未対応(2024年完全義務化)

2024年1月1日から、電子取引のデータ保存が完全義務化されました。これは非常に重要な改正です。

よくある失敗例

  • メールで受け取った請求書をプリントアウトして紙で保存
  • PDFファイルの保存を忘れる
  • スクリーンショットだけで保存
  • インボイス番号の確認不足

電子帳簿保存法に違反すると、以下のペナルティがあります。

  • 青色申告の承認取り消し
  • 最大100万円以下の罰金
  • 電子データの改ざんが発覚した場合、重加算税が10%加重

対策:4つの必須要件

  1. 電子取引データは電子のまま保存(紙に印刷しても電子データの保存は必要)
  2. タイムスタンプの付与または履歴管理システムの導入
  3. 日付・金額・取引先での検索機能の確保
  4. 事務処理規程の整備

特に中小企業の場合、事務処理規程を作成して運用する方法が現実的です。国税庁のサンプルをダウンロードして、自社用にカスタマイズしましょう。

NG行為⑤:役員貸付金の不自然な増加

役員貸付金は、調査官が最も嫌う項目の一つです。

問題となるケース

  • 役員貸付金が長期間返済されていない
  • 私的支出を会社カードで決済
  • 個人口座で会社の支払いを行う
  • 会社カードで家族の買い物

長期的に返済がない場合、税務調査で「役員賞与」と認定される可能性があります。

【実例】ある建設業C社のケース

C社では社長が会社の資金を個人的に使い、役員貸付金が3年間で1,500万円まで膨らみました。税務調査で「返済の実態がない」「金銭消費貸借契約書もない」と判断され、全額が役員賞与と認定されました。

結果:

  • 法人税:役員賞与は損金不算入→約450万円の追徴
  • 源泉所得税:源泉徴収漏れ→約150万円の追徴
  • 合計約600万円の追徴課税

対策

  1. 金銭消費貸借契約書の作成
  2. 適正な利率での利息計上(令和6年は年0.9%)
  3. 明確な返済スケジュールの設定
  4. 月次での残高確認

理想は、調査前に役員貸付金をゼロにすることです。

NG行為⑥:外注費の実態が曖昧

外注費は利益調整に使われることが多いため、厳しくチェックされます。

必須の資料

  • 契約書(業務内容、報酬、期間の明記)
  • 成果物
  • 作業報告書
  • 請求書との整合性

これらが揃っていないと「実態なし」と判断され、架空経費として否認されます。

【実例】あるWeb制作会社F社のケース

F社は外注先に月額30万円を支払っていましたが、契約書や成果物の記録がありませんでした。税務調査で「実態が確認できない」として2年分、約720万円が否認され、追徴税額は約250万円に達しました。

NG行為⑦:広告費の不自然な増加

Web広告の急増や、効果測定が不明な広告を多用する企業は要注意です。

調査官が確認すること

  • 広告の実施証拠(契約書、広告画面のキャプチャ)
  • 効果測定のデータ(アクセス解析、コンバージョン率)
  • 金額の妥当性

広告効果のレポートやアクセス解析データがあると、説得力が増します。

NG行為⑧:棚卸資産の不自然な評価損

期末に評価損をまとめて計上する企業が多いですが、調査官は必ず理由を聞きます。

必要な証拠

  • 陳腐化や不良在庫の写真
  • 廃棄記録
  • 市場価格の下落データ
  • 評価減の算定根拠

証拠がないと否認されます。

NG行為⑨:賞与・役員賞与の処理誤り

よくあるミス

未払い賞与の損金算入要件不備

  • 全従業員への事前通知がない
  • 決算日後1か月以内に支給していない

役員賞与の決定手続き不備

  • 事前確定届出給与の届出を忘れた
  • 届出と異なる金額を支給した

臨時賞与の処理ミス

  • 損金算入のタイミングを誤った

賞与関連は要件が細かく、ミスが起きやすい領域です。

NG行為⑩:旅費交通費の不自然な内容

代表的な問題例

  • 家族旅行の紛れ込み
  • 出張手当の過大支給
  • 私的利用との混在(観光地での宿泊など)

旅費は内容の確認がしやすいため、調査官が好んでチェックする項目です。

対策

  • 出張報告書の作成
  • 業務関連の証拠(打ち合わせ議事録、訪問先の記録)
  • 出張旅費規程の整備

NG行為⑪:補助金・助成金の処理ミス

補助金は内容によって処理方法が異なります。

主な処理方法

  • 雑収入として計上(運転資金補助など)
  • 売上として計上(事業活動への補助)
  • 資産計上(固定資産の圧縮記帳)

誤処理が非常に多い部分なので、税理士と相談して正しく処理しましょう。

NG行為⑫:現金・預金の不一致

調査官は入金と出金の流れを必ず確認します。

よくある問題

  • 現金残高が帳簿と実際で合わない
  • 個人口座を事業に利用している
  • 不明な入金・出金がある

これは企業の信用を大きく損なう問題です。現金管理は厳格に行いましょう。

企業がNG行為を防ぐための5つの対策

【1】売上計上と経費区分のルール化

判断基準を明文化し、社内で統一することが最重要です。

例:売上計上基準書

  • 商品販売:納品時点で計上
  • 工事契約:検収書受領時点で計上
  • サービス提供:役務提供完了時点で計上

【2】証憑保存の統一ルール

電子帳簿保存法に対応した保存ルールを整備しましょう。

  • フォルダ名の統一(例:2024年1月_請求書)
  • 保存場所の明確化
  • ファイル命名規則の統一(例:20240115_取引先名_請求書.pdf)

【3】役員勘定の月次確認

役員貸付金や役員借入金の残高が増えたら、すぐに理由を確認する仕組みを作りましょう。

【4】外注費・広告費の契約内容整理

契約書・成果物・請求書をセットで保管する習慣をつけましょう。

【5】社内教育の実施

ルールを作るだけでは不十分です。経理担当者だけでなく、営業や現場の社員にも税務の基礎知識を共有しましょう。

教育内容の例

  • 経費区分の基準
  • 領収書の取得ルール
  • 電子帳簿保存法の要件
  • 交際費と会議費の違い

まとめ:NG行為の多くは”知らずに起きている”

企業の多くは、悪意があって不正をしているわけではありません。ただ、「知らなかった」「ルールがなかった」という理由だけでNG行為を積み重ねてしまいます。

逆にいえば、正しい知識とルールを整えることで、企業は税務調査に強くなり、余計な税負担を避けることができます。

【今日からできるアクション】

  1. 売上計上基準を文書化する
  2. 電子帳簿保存法への対応状況をチェックする
  3. 役員貸付金の残高を確認し、返済計画を立てる
  4. 経費区分の基準を明確にする
  5. 外注費の契約書・成果物を整理する

これらを実践することで、あなたの会社は確実に「税務調査に強い企業」に近づきます。