申告書の「ここ」を見れば税理士の質が分かる―企業が知るべき5つのチェックポイント
「税理士に任せているから大丈夫」
多くの経営者がそう考えています。しかし、申告書の内容を深く確認せずにサインしていませんか?
実は、申告書を読み解く力こそが、企業を守る力なのです。
なぜなら、申告書には以下の情報が詰まっているからです:
- 税理士の処理能力
- 節税の提案力
- 税務リスクへの対応力
- 経理体制の健全性
本記事では、企業が申告書を見る際に「最低限ここだけは確認すべき」という5つのポイントを、実務レベルで解説します。申告書を読めるようになることで、税務リスクを大幅に低減し、節税のチャンスを逃さない企業になれます。
なぜ申告書チェックが重要なのか
理由①:税務調査は2〜3年後に来る
税務の問題は、申告時ではなく税務調査時に発覚します。
2022年の申告誤り
↓
2024年に税務調査
↓
追徴課税 + 延滞税 + 加算税
↓
本来払わずに済んだ税金を支払う
申告書を毎年チェックしていれば、税務調査前に誤りを発見・修正できます。
理由②:節税の機会損失
多くの中小企業が、活用できる税制優遇を見落としています。
見落とされやすい節税制度(2024年版):
- 中小企業投資促進税制
- 少額減価償却資産の特例(30万円未満)
- 所得拡大促進税制(賃上げ税制)
- DX投資促進税制
- 繰越欠損金の活用
これらは申告書の「別表」を見れば、適用されているか一目瞭然です。
理由③:税理士の能力評価
顧問税理士の仕事の質は、申告書に表れます。
質の高い税理士:
- 適用可能な特例をすべて検討
- 前年との比較分析を実施
- 税務リスクを事前に指摘
質の低い税理士:
- 毎年同じ処理の繰り返し
- 新しい提案なし
- 説明が曖昧
申告書を読めるようになれば、税理士の能力を客観的に評価できます。
チェックポイント①:別表四「所得の金額の計算に関する明細書」
別表四は、会計上の利益から税務上の所得を計算する、最も重要な書類です。別表4は税務上の損益計算書と言われることがあります。
別表四の役割
会計上の利益(決算書)
↓
+ 加算項目(損金不算入)
- 減算項目(益金不算入)
↓
税務上の所得(課税標準)
チェックすべきポイント
① 加算項目の内容
加算項目とは、会計上は経費だが税務上は経費にならないものです。
代表的な加算項目:
- 交際費の損金算入限度額超過分
- 減価償却の超過額
- 役員給与の損金不算入額
- 寄附金の損金算入限度額超過分
危険な兆候: 「毎年同じ項目が同じ金額で加算されている」
これは、税理士が改善提案をしていない証拠です。
例:
交際費の損金算入限度額超過:毎年100万円
→ なぜ改善策を提案しないのか?
→ 交際費を減らす、または会議費に振り替えるなどの対策が必要
② 減算項目の内容
減算項目は、会計上は収益だが税務上は収益にならないものです。
代表的な減算項目:
- 受取配当等の益金不算入額
- 還付法人税等
- 所得税額等及び欠損金の繰戻しによる還付金額
③ 留保・社外流出・特別控除の区分
別表四には、②留保、③社外流出、④所得・留保の各欄があります。
留保: 企業内に蓄積される項目(例:減価償却超過額) → 別表五(一)に連動
社外流出: 企業外に出ていく項目(例:交際費) → 別表五(一)には影響しない
この区分が正しくないと、別表四と別表五の整合性が取れなくなります。
検算式
別表四と別表五(一)には、以下の検算式が成り立ちます:
別表四の当期利益(①欄)
+ 別表四の留保項目(②欄の合計)
= 別表五(一)の利益積立金額の増加
この検算が合わない場合、申告書に誤りがある可能性があります。
チェックポイント②:別表五(一)「利益積立金額及び資本金等の額の計算に関する明細書」
別表五(一)は、企業の税務上の貸借対照表とも言える重要書類です。
別表五(一)の役割
企業が今までに留保してきた所得の累計額を管理します。
主な記載項目:
- 利益準備金
- 繰越損益金
- 積立金
- 特別償却準備金
- 圧縮記帳積立金
チェックすべきポイント
① 前期からの繰越金額
「①期首現在利益積立金額」は、前期の別表五(一)「④差引翌期首現在利益積立金額」と一致している必要があります。
一致していない場合: → 前期の修正申告があった → または、転記ミス
② 利益積立金額の不自然な動き
利益積立金額が急激に増減している場合、以下の可能性があります:
- 大きな資産売却
- 過去の税務調査での修正
- 繰越欠損金の計上・控除
- 配当の実施
理由が不明な場合は、税理士に説明を求めましょう。
③ 資本金等の額
資本金等の額は、株主資本等変動計算書と整合している必要があります。
特に重要: 資本金が1億円を超えると:
- 中小企業向けの税制優遇が使えなくなる
- 外形標準課税の対象になる(東京都など)
減資を検討すべきケースもあります。
チェックポイント③:別表五(二)「租税公課の納付状況等に関する明細書」
別表五(二)は、税金の前払・未払を管理する書類です。
別表五(二)の役割
法人税、住民税、事業税など、各種税金の納付状況を明らかにします。
チェックすべきポイント
① 未納税額の確認
「⑥期末現在未納税額」に記載されている金額が、貸借対照表の「未払法人税等」と一致しているか確認します。
一致していない場合: → 申告書と決算書の不整合 → 税務調査で指摘される可能性
② 納税充当金の処理
納税充当金とは、税金を支払うために会計上計上した金額です。
チェック項目:
- 納税充当金の繰入額が適切か
- 還付税額が正しく反映されているか
- 過年度の税金が精算されているか
③ 事業税の処理
事業税は、当期に発生した税金を翌期に損金算入します。
別表五(二)で正しく処理されているか確認しましょう。
チェックポイント④:別表十五「租税特別措置法の適用明細」
節税制度を使っている企業は、別表十五にその内容が記載されます。
別表十五の役割
租税特別措置法(税制優遇)の適用状況を明らかにします。
代表的な税制優遇:
- 中小企業投資促進税制(設備投資)
- 所得拡大促進税制(賃上げ)
- DX投資促進税制
- 研究開発税制
チェックすべきポイント
① 適用要件を満たしているか
各税制優遇には、適用要件があります。
例:中小企業投資促進税制
- 資本金1億円以下
- 機械装置:160万円以上
- 測定工具・検査工具:120万円以上(1台30万円以上)
要件を満たしていない場合、税務調査で否認されます。
② 添付書類が揃っているか
税制優遇の適用には、添付書類が必要です。
例:所得拡大促進税制
- 雇用者給与等支給額の計算に関する明細書
- 継続雇用者給与等支給額の計算に関する明細書
書類不備は税務調査で指摘されます。
③ 前年からの継続適用
一部の税制優遇は、継続適用が前提です。
例:圧縮記帳 圧縮記帳を適用した資産は、将来の減価償却に影響します。
別表十五で継続管理されているか確認しましょう。
チェックポイント⑤:科目明細書(経費・売上の内訳)
科目明細書は、税務調査官が最もよく見る資料です。
科目明細書の役割
主要な勘定科目の内訳を示します。
提出が必要な科目明細:
- 売上金額の明細
- 仕入金額の明細
- 役員報酬・給与手当の内訳
- 地代家賃の内訳
- 支払利息の内訳
チェックすべきポイント
① 交際費の内訳
交際費は税務調査で必ず確認されます。
チェック項目:
- 金額が大きい支出先
- 頻度が高い支出先
- 用途が不明な支出
危険な記載: 「その他」が全体の50%以上 → 内訳が不明確で、調査官の深掘り対象
② 外注費の内訳
外注費は架空計上が疑われやすい科目です。
チェック項目:
- 主要な外注先
- 個人への外注が多くないか
- 外注費の増加理由
危険な兆候: 前年比で外注費が倍増 → 理由が説明できないと深掘り
③ 雑費の内訳
雑費は「何でも入れられる科目」として悪名高い存在です。
健全な企業: 雑費は全体の経費の1%以下
危険な企業: 雑費が全体の10%以上 → 本来別科目で計上すべき支出が混在
④ 役員報酬の変動
役員報酬は原則として年度途中で変更できません。
チェック項目:
- 前年からの増減
- 定期同額給与のルール遵守
- 事前確定届出給与の提出
危険な処理: 年度途中で役員報酬を変更 → 損金不算入となり追徴課税
企業が申告書チェックを怠ると起こる5つのリスク
リスク①:節税の機会損失
活用できる税制優遇を見落とす → 年間数十万円〜数百万円の損失
リスク②:税務調査での指摘
申告誤りに気づかず放置 → 税務調査で発覚 → 追徴課税 + 延滞税 + 加算税
リスク③:経理担当者のミスに気づかない
社長が申告書を理解していないと、経理担当者のミスをチェックできません。
よくあるミス:
- 減価償却の計算誤り
- 消費税の仕入税額控除の誤り
- 別表の転記ミス
リスク④:税理士の能力を評価できない
税理士の仕事の質を判断できず、不適切な契約を続けてしまいます。
リスク⑤:経営判断の誤り
申告書を理解していないと、正確な財務状況が把握できず、経営判断を誤ります。
企業が今すぐできる3つのチェック方法
方法①:前年と比較する
前年の申告書と今年の申告書を並べて比較しましょう。
比較すべき項目:
- 別表四の加算・減算項目
- 別表五(一)の利益積立金額の増減
- 科目明細書の主要科目の増減
危険な兆候: 前年とまったく同じ記載 → 提案不足の可能性
方法②:不自然な金額や増減を探す
チェック項目:
- 役員報酬が前年の2倍
- 外注費が前年の5倍
- 交際費がゼロ
理由が不明な場合は、税理士に説明を求めましょう。
方法③:税理士に「根拠」を説明してもらう
申告書の疑問点を税理士に質問しましょう。
質問例: 「この加算項目は何ですか?」 「なぜこの処理にしたのですか?」 「別表五の数字が変わった理由は?」 「この節税制度は使えませんか?」
良い税理士: わかりやすく丁寧に説明できる
悪い税理士: 「専門的なので」と逃げる 回答が曖昧 説明できない
セカンドオピニオンで申告書をチェックする価値
自社だけで申告書をチェックするのは限界があります。
そこで有効なのが、税務のセカンドオピニオンです。
セカンドオピニオンで発見できること
① 申告誤りの指摘
- 別表の計算ミス
- 適用要件を満たさない税制優遇
- 消費税の処理誤り
② 節税チャンスの発見
- 活用していない税制優遇
- 経費処理の見直し
- 役員報酬の最適設計
③ 税務調査リスクの評価
- 指摘されやすい項目の洗い出し
- 事前修正の提案
- 資料整備のアドバイス
④ 税理士の能力評価 顧問税理士の仕事の質を客観的に評価できます。
実際の発見事例
【ケース1】節税漏れの発見
セカンドオピニオンの指摘:
「所得拡大促進税制(賃上げ税制)が適用できます」
結果:
過去3年分を更正の請求
→ 約200万円が還付
【ケース2】税務リスクの発見
セカンドオピニオンの指摘:
「外注費に契約書がありません。税務調査で否認される可能性があります」
結果:
調査前に契約書を整備
→ 追徴課税ゼロで調査終了
まとめ:申告書を読める経営者が企業を守る
申告書を読む力は、企業を守る力です。
申告書で必ずチェックすべき5つのポイント:
- ✓ 別表四:加算・減算項目の内容
- ✓ 別表五(一):利益積立金額の動き
- ✓ 別表五(二):税金の納付状況
- ✓ 別表十五:税制優遇の適用状況
- ✓ 科目明細書:主要経費の内訳
これらを理解するだけで:
- 節税の機会を逃さない
- 税務リスクを早期発見
- 税理士の能力を評価できる
- 経営判断の精度向上
申告書は「税理士だけのもの」ではありません。
経営者自身が内容を理解し、疑問があれば質問する――この姿勢が、企業の税務リスクを大幅に低減します。
まずは今年の申告書を取り出し、この記事で紹介した5つのポイントをチェックしてみましょう。
不安な点があれば、税務のセカンドオピニオンに相談することをお勧めします。第三者の専門家による客観的な評価が、企業をより安全で透明性の高い税務運営へと導きます。