税務調査で絶対に見られる5つの重点項目―企業が今から整えるべき防衛策

税務調査の通知を受けた経営者から、よくこんな質問を受けます。

「調査官は、いったい何を見るんですか?」

実は、税務調査で確認されるポイントはある程度決まっています。調査官は企業の帳簿をすべて細かく見るのではなく、「問題が起きやすい特定の項目」に集中して調査を進めるのです。

2024年度、税務調査は件数・厳格さともに大幅に増加しています。調査の対象となる会社には様々な要因がありますが、どのような会社でも必ず税務調査で確認される項目があります。

本記事では、税務調査で必ずチェックされる5つの重要ポイントと、企業が事前に整備すべき基準を実務レベルで徹底解説します。

ポイント①:売上計上のタイミング(最重要項目)

税務調査において、売上は基本的な確認事項となります。受注から引渡しまでの流れが確認され、見積書や納品書、請求書等の売上に関する書類が全て保管されていることが重要です。

なぜ売上が最重要なのか

売上の計上時期を操作することで、企業は税負担を一時的に軽減できます。そのため、調査官は売上計上に最も注意を払います。

売上計上基準の例:

  • 製造業・卸売業: 出荷日または納品日
  • サービス業: 役務提供完了日
  • システム開発: 検収日
  • 建設業: 工事完成基準または工事進行基準
  • サブスクリプション: 提供期間に応じた按分

調査官が特に注目する「期末売上」

期末近くの取引について、売上計上時期が適切かどうかを重点的にチェックします。

危険なパターン:

【ケース1】期ズレ
12月決算の企業が、12月納品分を翌年1月に計上
→ 意図的な利益圧縮と見なされる

【ケース2】計上基準の不統一
同じサービスなのに、A案件は検収ベース、B案件は請求ベース
→ 恣意的な操作の疑い

【ケース3】未請求売上の漏れ
納品済みだが請求書未発行のまま期末を迎える
→ 売上計上漏れ

近年増加している指摘事例

オンラインサービスの計上誤り:

  • 年間契約の一括受領を全額当期売上に計上
  • 正しくは提供期間に応じて按分計上

長期請負契約の処理誤り:

  • 工事進行基準の適用要件を満たさず
  • 進捗率の算定根拠が不明確

企業が整備すべき対策

✓ 売上計上基準の文書化

【当社の売上計上基準】
・BtoB製品販売:検収日
・BtoC製品販売:出荷日
・保守サービス:サービス提供期間に応じた按分
・カスタマイズ開発:検収書受領日

✓ 期末チェックリストの作成

  • 12月(決算月)納品分の請求書発行状況
  • 検収待ち案件の一覧
  • 未請求売上の確認
  • 前受金の妥当性チェック

ポイント②:交際費・会議費・福利厚生費の区分

経費に関しては税務調査で必ずチェックされ、特に交際費は厳しく確認されます。

3つの科目の正しい区分

科目対象具体例
交際費社外の取引先得意先との会食、贈答品、ゴルフ接待
会議費社内会議打ち合わせ時の茶菓子、弁当(5,000円以下/人)
福利厚生費従業員全体社員旅行、忘年会、健康診断

調査官が必ず深掘りする会食

チェックされる会食の特徴:

  • 夜の飲食(特に2次会以降)
  • 高額な飲食(一人あたり5,000円超)
  • 参加者が役員のみ
  • 頻度が高い(同じ取引先と月2回以上)

実際の指摘事例:

【指摘内容】
「会議費」として計上された飲食代30件
→ 実態は取引先との会食
→ 交際費に振替、損金算入限度額超過分を否認
→ 追徴課税150万円

インボイス制度による厳格化

2023年10月のインボイス制度開始以降、交際費の確認が一層厳格になっています。

必須記載事項:

  • インボイス登録番号
  • 飲食の場合:参加者氏名、目的
  • 5,000円超の場合:詳細な用途説明

企業が整備すべき運用ルール

交際費・会議費の判断フローチャート:

参加者に社外者がいる?
 ├ YES → 一人5,000円超?
 │        ├ YES → 交際費
 │        └ NO → 会議費
 └ NO → 従業員全体対象?
          ├ YES → 福利厚生費
          └ NO → 会議費または交際費

経費精算書への必須記載:

  • 日時・場所
  • 参加者氏名(部署・役職も)
  • 目的(具体的に)
  • 商談内容の簡単なメモ

ポイント③:役員勘定(貸付金・借入金)

役員勘定は税務調査で必ず確認される重点項目です。

なぜ役員勘定が危険なのか

税務リスクの連鎖:

役員貸付金の放置
↓
実質的な役員賞与と認定
↓
【企業】法人税の損金不算入
【役員】所得税・住民税の追徴
【企業】源泉徴収義務違反
↓
合計で数百万円の追徴課税

典型的な問題パターン

パターン1:私的支出の会社負担

  • 社長の個人的な飲食を交際費計上
  • 家族旅行を社員旅行費として計上
  • 自宅のリフォーム代を修繕費計上

パターン2:資金の混在

  • 会社の売上が社長個人口座に入金
  • 会社の経費を社長個人カードで支払い
  • 現金管理の曖昧さ

パターン3:返済計画のない貸付

  • 毎年増加し続ける役員貸付金
  • 金銭消費貸借契約書なし
  • 利息の設定なし

金融機関への影響

役員貸付金が多い企業は、銀行融資の審査で大幅なマイナス評価となります。

銀行の見方: 「役員貸付金1,000万円 = 回収困難な不良債権」

適正な処理方法

① 金銭消費貸借契約書の作成

【記載事項】
・貸付金額
・貸付日
・返済期限
・返済方法(月額〇〇万円)
・利率(2024年基準:年0.9%)

② 定期的な返済の実施

  • 役員報酬から毎月天引き
  • 年度末にゼロを目指す計画
  • 返済実績の記録保管

③ 新規発生の防止

  • 個人支出は個人口座から
  • 会社カードの私的利用禁止
  • 月次で役員勘定をチェック

ポイント④:契約書・請求書・成果物の整合性

外注費は架空計上の温床とされ、厳しくチェックされます。契約書や成果物の実在性が確認されます。

調査官が疑う3つの経費

1. 外注費

  • 実態のない架空外注
  • 人件費の外注費への付け替え
  • 家族・親族への発注

2. コンサルティング費

  • 具体的な成果物なし
  • 契約書なし、打ち合わせ記録なし
  • 知人の会社への形式的発注

3. 広告宣伝費

  • 効果測定なし
  • 掲載証明なし
  • SNS広告の実態不明

実際の否認事例

【ケース】ウェブデザイン費 500万円

調査官の確認:

Q: デザイン委託契約書は?
A: 口頭での発注でした

Q: 納品物は?
A: データが見当たりません

Q: メールのやり取りは?
A: 残っていません

Q: 修正依頼の記録は?
A: ありません

結果: 架空経費として全額否認 + 重加算税35%

必須書類セット

外注費・コンサル費の場合:

  1. ✓ 業務委託契約書
  2. ✓ 発注書・注文書
  3. ✓ 作業報告書
  4. ✓ 納品書・検収書
  5. ✓ 成果物(データ、報告書、画像等)
  6. ✓ メールでのやり取り記録
  7. ✓ 請求書
  8. ✓ 振込記録

広告費の場合:

  1. ✓ 広告掲載契約書
  2. ✓ 媒体資料(媒体の概要、読者層など)
  3. ✓ 掲載証明(実際の広告画像、URL、誌面)
  4. ✓ 効果測定レポート(PV数、クリック数など)
  5. ✓ 請求書・振込記録

企業が整備すべき管理体制

外注管理フロー:

発注前
├ 見積書取得
├ 契約書締結
└ 社内稟議・承認

遂行中
├ 進捗報告の記録
├ メール・会議記録の保存
└ 中間成果物の確認

完了時
├ 納品物の検収
├ 検収書の作成
├ 成果物の保管
└ 請求書・振込処理

保存
└ 専用フォルダに一式保管(7年間)

ポイント⑤:インボイス登録番号と電子帳簿保存法対応

2024年以降、電子帳簿保存法に基づく適切な保存がされているかもチェックされます。

2024年以降の重点チェック項目

① インボイス登録番号の確認

  • すべての請求書・領収書に登録番号が記載されているか
  • 登録番号が実在するか(国税庁サイトで照合)
  • 免税事業者との取引の処理は適切か

② 電子帳簿保存法への対応

  • 電子取引データを電子形式で保存しているか
  • 検索要件を満たしているか
  • 改ざん防止措置(タイムスタンプまたは訂正削除履歴)

インボイス不備による影響

登録番号がない場合:

経費:認められる
仕入税額控除(消費税):否認される
↓
実質的な企業負担増加

例: 広告費100万円(税込110万円) → 登録番号なし → 消費税10万円が控除できない → 実質的に10万円の損失

電子帳簿保存法の実務対応

保存が必要な電子取引:

  • メール添付のPDF請求書
  • ECサイトの領収書
  • クラウドサービスの利用明細
  • インターネットバンキングの明細
  • クレジットカードの利用明細

NG対応:

  • PDFを印刷して紙で保存のみ
  • スクリーンショットで保存のみ
  • 検索できない状態で保存

OK対応:

  • 原本をPDF形式で保存
  • ファイル名に「日付_金額_取引先名」を記載
  • 専用フォルダで管理
  • クラウドストレージで検索可能な状態

企業が今すぐ実行すべき5つの整備項目

整備①:売上計上基準の明文化

記載例:

【株式会社〇〇 売上計上基準】

1. 製品販売
・BtoB:検収日
・BtoC:出荷日

2. サービス提供
・単発:役務提供完了日
・継続:サービス提供期間に応じた按分

3. システム開発
・請負契約:検収書受領日
・準委任契約:作業完了報告日

整備②:経費科目の運用ルール

記載例:

【経費区分ルール】

交際費:
・社外の取引先との飲食・贈答
・一人5,000円超は全額交際費
・参加者氏名・目的を明記必須

会議費:
・社内会議の飲食
・一人5,000円以下
・議事録と紐づけ

福利厚生費:
・全従業員対象
・社員旅行、慰労会、健康診断
・特定の役員・従業員のみは対象外

整備③:役員勘定管理台帳

台帳記載項目:

  • 発生日
  • 発生理由
  • 金額
  • 返済予定日
  • 返済実績
  • 残高

月次チェック: 毎月末に残高を確認し、増加傾向なら即対策

整備④:契約書・成果物のセット管理

フォルダ構造:

【外注・広告費管理】
├ 2024年度
│ ├ 案件001_〇〇システム開発
│ │ ├ 01_契約書.pdf
│ │ ├ 02_見積書.pdf
│ │ ├ 03_発注書.pdf
│ │ ├ 04_進捗報告.pdf
│ │ ├ 05_納品物(フォルダ)
│ │ ├ 06_検収書.pdf
│ │ ├ 07_請求書.pdf
│ │ └ 08_振込記録.pdf

整備⑤:インボイス・電子帳簿の管理ルール

運用ルール文書化:

【電子取引データ保存規程】

1. 保存場所
・サーバー:〇〇
・フォルダ:電子取引データ/年度/月

2. ファイル命名規則
・YYYYMMDD_金額_取引先名.pdf

3. 検索要件
・日付、金額、取引先で検索可能

4. 改ざん防止
・訂正削除履歴が記録されるシステム使用

まとめ:税務調査は「準備した企業が圧倒的に有利」

税務調査は対応次第で結果が大きく変わります。

税務調査で確認される項目:

  1. ✓ 売上計上のタイミング
  2. ✓ 交際費・会議費・福利厚生費の区分
  3. ✓ 役員勘定の状況
  4. ✓ 契約書・成果物の整合性
  5. ✓ インボイス・電子帳簿保存法対応

これら5つのポイントを事前に整備しておけば:

  • 調査官の深掘りを回避
  • 調査期間の短縮
  • 追徴課税リスクの大幅低減
  • 経営者の精神的負担軽減

税務調査は、「準備した企業が勝つ」世界です。

逆に準備不足の企業は、調査官の疑念を招き、些細なミスまで深掘りされる悪循環に陥ります。

今日から5つの項目を順次整備し、いつ税務調査が来ても動じない体制を構築しましょう。