経理担当者が”1人しかいない会社”が危ない

~税務リスクを抑えるための体制づくり~

中小企業では、「経理担当者が1人」という体制は珍しくありません。むしろ、経理専任がいるだけでも恵まれているケースが多いですよね。

中小企業庁の調査によると、中小企業の約6割が経理・財務担当者が1人という「1人経理」の状態です。

しかし、税務調査の現場では、“経理担当者が1人しかいない会社はリスクが高い”と判断されることがあります。

理由はシンプルで、チェックが働かない・担当者の知識に依存する・属人化しやすい・ミスが蓄積されるからです。

本記事では、経理担当者が1人しかいない企業が抱える危険性と、リスクを最小限に抑えるための体制づくりについて、実務的な視点から解説します。

経理担当者1人体制の”根本的な問題”

経理担当者が1人という体制は、日常業務は回りますが、「ミスを発見できる人がいない」という致命的な弱点があります。

よくあるミスの例

  • 売上計上の誤り(期ズレ、計上漏れ)
  • 交際費/会議費の誤区分
  • 領収書の保存漏れ
  • 役員貸付金の処理誤り
  • インボイス登録番号の未チェック

これらは、1つ1つは小さなミスでも、積み重なることで税務調査で大きな指摘になります。

また、1人の担当者が経理のすべてを把握しているため、担当者が退職・休職した瞬間に業務が停止してしまう「属人化リスク」もあります。

【実例】ある製造業T社のケース

T社では経理担当者が1人で、10年以上同じ方が担当していました。ある日、その担当者が急病で2か月休職することになり、経理業務が完全にストップ。給与計算や請求書発行もできず、社長が代わりに対応しようとしましたが、処理方法が全く分からず大混乱に陥りました。

復帰後も、休職中の期間の処理が曖昧になっており、税務調査で多数の指摘を受けることになりました。

税務調査官は「1人体制」をどう見るか?

税務調査官は事前に企業情報を確認します。経理担当者が1名の場合、調査官は以下を疑う傾向があります。

調査官が抱く疑念

  • 二重チェックが行われていない
  • 担当者によって処理基準が変化している
  • 経理担当者の知識次第で品質に差が出る
  • 内部統制が弱い

特に「処理基準はありますか?」と質問された際に、「担当者に任せていて特に決まってないです」という回答は、調査官が深掘りするサインです。

【実例】あるIT企業U社のケース

U社の税務調査で、調査官が「経理体制はどうなっていますか?」と質問しました。社長は「経理は1人で、ベテランなので全て任せています」と回答。調査官はすぐに「では、その方が不在の時のチェック体制は?」「処理基準は文書化されていますか?」と深掘り。

結果、担当者独自の判断で交際費と会議費の区分が不適切だったケースが複数見つかり、約90万円の追徴課税となりました。

税務リスクが高い”1人体制あるある”

企業が気づかないうちに起きている、1人体制特有のリスクを紹介します。

①経費区分が”担当者の感覚”で判断されている

交際費・会議費・福利厚生費などの判断は難易度が高いですが、1人体制だと担当者の勘や過去の処理に依存しがちです。

問題点

  • 明確な判断基準がない
  • 担当者が変わると処理方法も変わる
  • 税法の改正に対応できていない

②仕訳のクセが偏っている

担当者のクセによって、以下のような問題が発生します。

  • 雑費が多すぎる(本来は他の科目で処理すべき)
  • 経費の名称がバラバラ(消耗品費と事務用品費が混在など)
  • 仕訳が不正確(売掛金と前受金の区別が曖昧など)

③役員貸付金が放置されている

担当者は日々の処理に追われるため、役員勘定の管理が後回しになることが多いです。

【実例】ある建設業V社のケース

V社では経理担当者が1人で、日常業務に追われて役員貸付金の残高管理をしていませんでした。社長が個人の支払いを会社カードで決済することが頻繁にあり、気づけば役員貸付金が5年間で1,200万円まで膨らんでいました。

税務調査で「返済の実態がない」として役員賞与と認定され、約450万円の追徴課税となりました。

④領収書の保存が不統一

紙とデータが混在し、フォルダ構成が担当者の私的ルールになっていることがあります。

問題点

  • 紙・PDF・メールがバラバラに保存
  • ファイル名の命名規則が統一されていない
  • 電子帳簿保存法に対応できていない

⑤教育機会がない

制度改正(インボイス制度、電子帳簿保存法)が多い中、担当者が知識をアップデートできず、知らないうちに違反状態になっているケースがあります。

【実例】ある小売業W社のケース

W社では経理担当者が1人で、インボイス制度について十分に理解していませんでした。2023年10月以降も適格請求書発行事業者の登録番号を確認せずに仕入税額控除を行い、税務調査で約200万円分の仕入税額控除が否認されました。

経理担当者1人体制のまま”安全に運用”する方法

人数を増やすことが難しい企業は、「体制」を見直すことでリスクを減らすことができます。

以下は最低限やるべき5つの対策です。

【1】経理ルールの「文書化」

経費区分、売上計上基準、証憑の保存方法など、すべてルール化して文書に残すことが必須です。

文書化すべき項目

  • 売上計上基準(納品時・検収時・役務提供完了時)
  • 経費区分の判断基準(交際費・会議費・福利厚生費)
  • 領収書の保存ルール(フォルダ構成、命名規則)
  • 役員勘定の処理ルール(発生時の対応、返済計画)
  • インボイス制度への対応(登録番号の確認方法)

属人化を避ける最大のポイントです。

【2】月次での”ダブルチェック”体制

二重チェックは必ず必要です。

チェック担当者の例

  • 社長
  • 管理部の他の担当者
  • 外部専門家(税理士、会計士)

担当者以外の目で確認するだけで、ミスは大幅に減ります。

チェックすべきポイント

  • 月次で仕訳の内容を確認
  • 残高試算表の前月比較
  • 役員勘定の残高確認
  • 経費の異常値チェック(急増した科目など)

【3】領収書保存の統一ルール化

紙・PDF・メールのPDFなど、保存場所を統一します。

フォルダ構成例

/2024年/
  ├01月_請求書/
  ├01月_領収書/
  ├01月_クラウドサービス/
  ├02月_請求書/
  ├02月_領収書/
  ...

命名規則例

  • 20241215_株式会社○○_請求書.pdf
  • 20241220_△△商事_領収書.pdf

インボイス登録番号のチェック

  • 領収書に「T+13桁」の登録番号があるか確認
  • 国税庁の「適格請求書発行事業者公表サイト」で有効性を確認

【4】年1回の”税務ドック(セカンドオピニオン)”

1人体制では見落としや判断ミスが起きやすいため、第三者によるチェックが非常に効果的です。

チェック内容

  • 処理の統一性
  • 税務リスクの洗い出し
  • 節税漏れの確認
  • 運用ルールの妥当性

年に1回、税理士や会計士などの外部専門家に全体をチェックしてもらうことで、大きなミスを未然に防ぐことができます。

【5】担当者のスキルアップ機会を作る

インボイス制度、電子帳簿保存法、改正税制は毎年アップデートされます。

スキルアップの機会

  • オンライン研修の受講
  • 税務セミナーへの参加
  • 専門家との定期面談
  • 税務関連の書籍・雑誌の購読

最低でも年1回は知識を更新させる環境が必要です。

1人経理のリスクに不安がある経営者の方へ

「経理が1人で、本当に大丈夫か不安…」 「担当者が辞めたら、誰も業務を引き継げない…」 「税務調査で指摘されないか心配…」

そんな経営者の方におすすめなのが、CROSSROAD税理士事務所の「税務調査あんしん対策パック」です。

サービスの特徴

このサービスは、企業の税務状況を徹底調査・改善し、今後に向けての対策を3か月かけて実施するものです。

具体的な内容

  • 現状の経理体制の問題点を洗い出し
  • 経理ルールの文書化支援
  • ダブルチェック体制の構築アドバイス
  • 領収書保存ルールの整備支援
  • 担当者向けの税務研修

企業が税務調査の対象となる確率は約4%ですが、1人経理の体制では内部統制が弱いと判断され、調査が厳しくなる傾向があります。

税務調査あんしん対策パックは、まさに税務調査への対策であり、保険であり、ワクチンです

詳しくは以下のURLをご覧ください。
https://zeimuanshin.cr-tax.jp/

まとめ:経理担当者1人体制は危険だが、”仕組み化”で守れる

1人体制は中小企業では当たり前です。人を増やすのは難しい現実があります。

しかし、体制の弱さを放置すると、税務調査で深刻な指摘につながります。

企業を守るのは担当者の能力ではなく「仕組み」です。

ルール化、二重チェック、外部専門家を組み合わせることで、1人体制でも十分に税務リスクを回避することができます。

1人経理のリスクを減らす5つの対策

  1. 経理ルールの文書化
  2. 月次でのダブルチェック体制
  3. 領収書保存の統一ルール化
  4. 年1回の税務ドック(セカンドオピニオン)
  5. 担当者のスキルアップ機会の確保

【今日からできるアクション】

  1. 経理ルールが文書化されているか確認する
  2. 月次でチェックする担当者を決める
  3. 領収書の保存ルールを統一する
  4. 役員貸付金の残高を確認する
  5. 税務調査あんしん対策パックで専門家のサポートを受ける

これらを実践することで、あなたの会社は確実に「税務調査に強い企業」になります。