年末こそ税務リスクが高まる時期

~12月に必ず見直すべき”5つの最重要ポイント”~

12月は企業にとって「忙しさのピーク」ですよね。年末の追い込みで誰もが慌ただしい時期です。

でも実は、12月は税務リスクが最も高まる月でもあるんです。

理由はシンプルで、経理担当者が多忙になり、領収書が増え、年末に向けた駆け込み施策が増える…といったミスの発生要因が重なるからです。さらに、売上計上のズレや決算に向けた調整も行われるため、知らず知らずのうちに税務上の問題を抱えてしまう企業が後を絶ちません。

本記事では、年末だからこそ企業が絶対にチェックすべき「12月の税務リスク重点5ポイント」を、実務的な視点から徹底解説します。

ポイント①:売上計上の基準が”ブレていないか”

12月は、企業の売上が年間で最も動く時期です。そのため税務調査でも**「年末の売上計上ミス」**は最重要項目としてチェックされます。

売上計上は、納品日・検収日・請求日・サービス提供完了日のいずれかで統一すべきですが、12月は特に以下の問題が起こりやすくなります。

よくあるトラブル①:「請求書の発行遅れ」

年末の混雑で発行が遅れ、翌月に回すケースです。実態は12月の売上なのに、計上が1月になると「利益操作の可能性あり」と判断されます。

【実例】ある建設業L社のケース

L社は12月27日に工事が完了し検収も済んでいましたが、年末の忙しさで請求書の発行が1月にずれ込みました。売上も1月に計上していましたが、税務調査で「実質的に12月に取引は完了している」と指摘され、期ズレとして修正申告を求められました。追徴税額は約230万円に達しました。

よくあるトラブル②:「納品済みなのに売上未計上」

特にオンラインサービスやサブスク系のビジネスは要注意です。サービスの提供完了日と計上日のズレがよく発生します。

よくあるトラブル③:「前受金の処理誤り」

年末は前受金も増えます。前受金を売上として計上してしまったり、逆に提供済みのサービスを前受金のまま残してしまったりすると、翌年度の税務調査で必ず指摘されます。

対策

  • 売上計上基準を明文化し、全社で統一する
  • 12月の納品・検収状況を月末にリスト化
  • 請求書の発行漏れがないか最終確認
  • 前受金の内訳を詳細に把握

ポイント②:交際費・会議費・福利厚生費の区分ミス

12月は忘年会・お歳暮・会食など、“交際費が爆発的に増える月”です。

ただし、税務上は福利厚生費・交際費・会議費で扱いが大きく異なります。区分を間違えると、税務調査で否認されるリスクが高まります。

もっとも指摘されるケース

  • 従業員”全体”ではなく一部だけの忘年会 → 福利厚生費NG(交際費または給与扱い)
  • 飲酒を伴う夜の会食 → 会議費NG(交際費扱い)
  • 高額なお歳暮 → 交際費として扱う
  • 取引先向けの贈答 → 広告宣伝費にはできない

特に忘年会の費用は、「全従業員を対象にしていたか?」が重要な判断基準です。役員や幹部社員だけの忘年会は福利厚生費として認められません。

【実例】ある広告代理店M社のケース

M社は12月に部署ごとに3回の忘年会を開催し、全て「福利厚生費」で処理しました。しかし税務調査で参加者リストを確認されると、営業部の忘年会には営業部員の約半数しか参加しておらず、「全従業員対象ではない」として福利厚生費が否認され、交際費に振り替えられました。結果、交際費の損金不算入額が発生し、約80万円の追徴課税となりました。

インボイス制度で厳しさが倍増

2023年10月のインボイス制度開始以降、適格請求書発行事業者の登録番号の記載が必須となり、記載漏れは仕入税額控除不可となります。

12月の交際費・会議費の処理では、以下を必ず確認してください。

  • 領収書に登録番号(T+13桁)が記載されているか
  • 登録番号が有効かどうか(国税庁の公表サイトで確認可能)
  • 参加者名簿と業務との関連性の記録

対策

  • 1人あたり5,000円以上の飲食は参加者名簿を必ず作成
  • 領収書の裏に「○○社との商談」などメモ
  • インボイス登録番号の記載を必ず確認
  • 福利厚生費として処理する場合、全従業員対象であることを証明できる資料を保管

ポイント③:領収書・請求書の保存漏れ(電子帳簿保存法対応)

年末は、紙の領収書・メールのPDF・アプリのレシート・クラウドサービスの請求書など、多様な証憑が発生します。

12月のミスで最も多いのが「保存漏れ」です。

電子帳簿保存法の影響

2024年1月1日以降、電子データで受け取った領収書や請求書は、電子データのまま保存することが義務化されました。

つまり、メールで受け取ったPDF請求書を印刷して紙で保存するだけでは不十分で、PDFファイルそのものを保存する必要があります。

保存に必要な最低限の要件

  • 日付
  • 金額
  • 取引先名
  • インボイス登録番号(T+13桁)
  • 取引内容
  • 日付・金額・取引先で検索できる仕組み

特にクラウド会計を使っている場合、証憑が漏れると仕訳ごと不適切となり、大きなリスクになります。

【実例】あるコンサルティング会社N社のケース

N社は経費精算をクラウドシステムで行っていましたが、社員がスマホで撮影した領収書の画像をアップロードするだけで、元の紙の領収書は廃棄していました。税務調査で「画像が不鮮明で金額が確認できない」ものが複数見つかり、約50万円分の経費が否認されました。

対策

  • 電子取引データは必ず電子のまま保存
  • PDFファイルは指定フォルダへ統一保存(例:「2024年12月_請求書」)
  • ファイル命名規則の統一(例:「20241225_株式会社○○_請求書.pdf」)
  • Excel等で管理台帳を作成し、日付・金額・取引先で検索可能にする
  • 事務処理規程の整備(国税庁のサンプルを活用)

ポイント④:役員勘定の処理が曖昧になっている

12月は、社長のカード使用・立替払い・経費計上の駆け込みが急増するため、**役員勘定(貸付金・借入金)**が急に膨らむ企業が多いです。

税務調査で必ず確認される項目なので、年末こそ整理が必要です。

よくある問題

  • 社長個人の支出が経費に紛れている
  • 会社カードで私的支出をしている
  • 個人口座で会社関連の支出をしている
  • 役員貸付金が長期間返済されていない

これらが積み上がると、配当認定や役員賞与認定により税負担が増える可能性があります。

【実例】ある小売業O社のケース

O社では社長が年末に個人用の高級時計を会社のクレジットカードで購入し、「役員貸付金」として処理していました。しかし返済計画も利息計上もなく、3年間で役員貸付金が800万円まで膨らみました。税務調査で「返済の実態がない」として役員賞与と認定され、法人税の損金不算入と源泉所得税の徴収漏れで、約300万円の追徴課税となりました。

対策

  • 役員貸付金には金銭消費貸借契約書を作成
  • 適正な利率(年0.9%以上)で利息を計上
  • 明確な返済スケジュールを設定
  • 月次で残高を確認し、増加したらすぐに理由を把握
  • 理想は年内に役員貸付金をゼロにすること

ポイント⑤:期末に向けての”節税の駆け込み”の誤り

12月は節税施策が一気に増えます。しかし、焦って実行すると逆効果になることもあります。

危ない節税例

①減価償却資産の買い急ぎ

決算直前に不要な設備を購入しても、事業に使用していなければ損金算入できません。「購入しただけ」では不十分で、「事業の用に供した」ことが必要です。

②従業員に対する不自然な福利厚生費

年末に突然、高額な福利厚生費を計上すると、税務署は不自然だと判断します。

③役員賞与の未払い計上

役員賞与は事前確定届出給与の届出が必要です。届出なしで未払い計上しても損金算入できません。

④棚卸資産の評価損

陳腐化や不良在庫の証拠(写真、廃棄記録、市場価格の下落データ)がなければ否認されます。

いずれも税務署が最も注目する項目です。うまく活用すれば節税になりますが、条件を満たしていない場合は否認 → 加算税 → 延滞税という最悪の流れにつながります。

【実例】ある製造業P社のケース

P社は12月に利益が大きく出たため、決算月に高額な機械装置を購入しました。しかし年内に設置が間に合わず、実際に稼働したのは翌期の4月でした。税務調査で「事業の用に供していない」として当期の損金算入が否認され、約150万円の追徴課税となりました。

対策

節税施策を実行する前に、以下を確認しましょう。

  • 適用要件を満たしているか
  • 費用対効果はあるか
  • 銀行評価への影響はないか
  • 事業に必要な支出か(節税目的だけではないか)

12月に企業が必ずやるべきチェックリスト

以下の項目は、年末までに必ず見直すべきです。

【1】売上計上基準の統一確認

納品日・検収日・役務提供完了日のどれで実務を行うか、明確にして全社で統一。

【2】交際費・福利厚生費の区分確認

対象者・参加メンバーの記録、用途説明を明確化。インボイス登録番号の記載も確認。

【3】領収書・請求書の保存ルールの統一

電子帳簿保存法の要件を満たしているかチェック。電子データは電子のまま保存。

【4】役員勘定の整理

貸付金・借入金・立替金を年内にクリアにする。返済計画と利息計上も忘れずに。

【5】節税施策の事前チェック

節税目的だけで判断しない。適用要件・費用対効果・銀行評価への影響を確認。

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まとめ:12月の過ごし方が”翌年の税務リスク”を決める

12月は忙しい月ですが、このタイミングでの確認が翌年の税務調査の難易度を大きく左右します。

年末のチェック体制を整えることで、企業は税務リスクを大幅に下げることができます。

12月に必ず見直すべき5つのポイント

  1. 売上計上の基準が統一されているか
  2. 交際費・会議費・福利厚生費の区分は適切か
  3. 電子帳簿保存法に対応できているか
  4. 役員勘定は整理されているか
  5. 節税の駆け込みが適切な範囲か

【今日からできるアクション】

  1. 12月の売上計上状況をリスト化し、計上漏れがないか確認
  2. 忘年会の参加者名簿を作成し、福利厚生費の要件を満たすか確認
  3. 電子取引データの保存状況をチェック
  4. 役員貸付金の残高を確認し、年内返済を検討
  5. 税務調査あんしん対策パックで専門家のサポートを受ける

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