決算前に”節税だけ”を考える企業は危険

~銀行評価と税務を両立させる決算戦略~

多くの企業が12月になると考えるのが、「今期、節税どうしよう?」というテーマですよね。

もちろん節税は重要です。でも、節税”だけ”を優先すると、銀行評価が下がり、来期の資金調達に悪影響を与えることがあるんです。

「税金を減らせば手元にお金が残る」と考えがちですが、実は過度な節税は企業の財務を弱くし、銀行からの信用を失うリスクがあります。

本記事では、節税と銀行評価を両立させる賢い決算戦略を、実務的な視点から詳しく解説します。

財務と税務は”目的が違う”

まず理解すべきは、財務と税務では目的が全く異なるということです。

税務の目的 → 税負担を適正にする(節税)

財務の目的 → 企業の信用力を高める(融資を受けやすくする)

節税を優先すると、利益が減り、自己資本比率も低下します。一方、銀行評価は利益が多いほど高くなります。

この矛盾を理解せずに節税を進めると、企業全体の財務が弱くなってしまうんです。

よくある「節税のやりすぎ」例

【1】利益が少なすぎる

税務上は問題ありませんが、銀行は「利益の少なさ=経営不安定」と判断します。

【実例】あるシステム開発会社Q社のケース

Q社は毎期、広告費や外注費を駆使して利益をほぼゼロに抑えていました。税負担は少なかったのですが、新規事業のために融資を申し込んだところ、「3期連続で営業利益がほぼゼロ。収益力に疑問がある」として融資が否決されました。結局、事業拡大の機会を逃すことになりました。

【2】減価償却の過度な計上

中小企業投資促進税制(特別償却30%または税額控除7%)などの一括償却や特例適用は節税効果が高いですが、銀行は「利益の質が悪い」と見なすことがあります。

特別償却を使って大きく償却すると、帳簿上の利益が減少し、自己資本比率も低下します。

【3】短期的な支出の増加

決算月に突然、以下のような支出を増やすと、銀行は「無理な節税の兆候」と判断します。

  • 広告費の急増
  • 修繕費のまとめ計上
  • 福利厚生費の駆け込み計上

【実例】ある飲食業R社のケース

R社は決算月の3月に、店舗の大規模修繕を一気に実施しました。節税効果は高かったのですが、決算書を見た銀行から「急激なキャッシュアウト。資金繰りに問題があるのでは?」と懸念され、次回の融資審査で金利が引き上げられました。

【4】役員報酬を不自然に調整

年末に一気に報酬を下げる企業がありますが、これは銀行から見て非常に不自然です。

「なぜ急に役員報酬を下げたのか?」「会社の業績が悪化しているのでは?」と疑われます。

銀行が重視するのは”継続的な黒字”

銀行は企業を評価する際、以下のポイントを重視します。

①本業で利益が出ているか

補助金や助成金による黒字は評価されません。営業利益がプラスであることが重要です。

②キャッシュフローが安定しているか

節税目的の支出はキャッシュを減らします。手元資金が少ない企業は、銀行から「資金繰りが厳しい」と判断されます。

③自己資本比率が下がっていないか

過度な節税は自己資本を減少させ、財務の健全性を損ないます。

一般的に、自己資本比率が以下の水準を下回ると、銀行評価が厳しくなります。

  • 20%以下:財務的に脆弱
  • 10%以下:資金繰りリスクが高いと判断

④短期借入金が増えていないか

資金繰りの悪化は、銀行にとって大きなマイナス評価です。

節税と銀行評価を両立させる”理想的な決算戦略”

節税と財務の両立は可能です。重要なのは「目的の順番」です。

【1】まず銀行評価を高める

最低限、以下の指標はクリアすべきです。

  • 営業利益の黒字
  • 自己資本比率の維持(最低20%以上)
  • 役員貸付金ゼロ
  • 短期借入金の増加なし

これを満たした上で、節税策を検討するのが最適解です。

考え方の順番

  1. 銀行評価が落ちないか?
  2. キャッシュが十分に残るか?
  3. 税務リスクがないか?
  4. 節税効果はあるか?

【2】節税は”継続的な効果”があるものから

銀行評価を落とさない節税策として有効なのは、以下のような継続効果のあるものです。

①中小企業投資促進税制

機械装置等の対象設備を取得した場合、取得価額の30%の特別償却または7%の税額控除が選択適用できる制度です。

令和7年度税制改正で適用期限が2027年3月31日まで2年間延長されました。

事業に必要な設備投資であれば、銀行も前向きに評価します。

②所得拡大促進税制(賃上げ促進税制)

従業員の給与を増やすことで税額控除を受けられる制度です。賃上げは銀行からも好意的に評価されます。

③社宅制度の導入

役員・従業員の住宅を会社が借り上げて社宅として提供すると、福利厚生費として損金算入できます。継続的な節税効果があり、銀行評価にも影響しません。

【3】来期の資金需要を見越して利益を残す

節税で利益を減らしすぎると、翌年の融資審査で困ります。

以下のような資金需要を見越して、「来期必要な資金」を逆算して利益を残すべきです。

  • 設備投資の予定
  • 採用計画
  • 新規事業の立ち上げ
  • 運転資金の増加

【実例】ある製造業S社のケース

S社は前期に過度な節税を行い、利益をほぼゼロにしました。翌期、新工場の建設のために融資を申し込みましたが、「前期の利益がゼロでは返済能力に疑問がある」として融資額が希望の半分に減額されました。結果、新工場の規模を縮小せざるを得なくなりました。

【4】役員報酬の適正化

銀行は役員報酬が低すぎる企業を嫌います。不自然な調整は信用を下げます。

役員報酬は「業界水準」「会社の規模」「利益水準」に見合った金額に設定すべきです。

【5】”財務→税務”の順番で考える

理想的な決算戦略の流れはこれです。

ステップ1:銀行評価が落ちないか確認

  • 営業利益は黒字か
  • 自己資本比率は維持できるか
  • キャッシュフローは安定しているか

ステップ2:税務リスクがないか確認

  • 適用要件を満たしているか
  • 証拠資料は揃っているか

ステップ3:節税効果を検討

  • 節税額はどのくらいか
  • 費用対効果はあるか

銀行評価を落とさない節税施策の具体例

①中小企業投資促進税制の活用

事業に必要な機械装置やソフトウェアへの投資は、銀行も前向きに評価します。

対象設備の例

  • 1台160万円以上の機械装置
  • 1台120万円以上の測定工具・検査工具
  • ソフトウェア(70万円以上)

②役員社宅の活用

役員の住宅を会社が借り上げて社宅として提供すると、家賃の一部を損金算入できます。銀行評価への影響もありません。

③決算賞与の支給

従業員のモチベーション向上にもつながり、銀行からも好意的に評価されます。ただし、未払い計上の要件(全従業員への事前通知、決算日後1か月以内の支給)を満たす必要があります。

④短期前払費用の活用

翌期の家賃や保険料を前払いすることで、当期の経費として計上できます。継続適用が条件です。

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まとめ:節税だけを追う企業は成長できない

節税は企業にとって非常に重要ですが、節税だけを目的にすると、以下のリスクが生じます。

  • 銀行評価の低下
  • 資金調達力の低下
  • 信用力の低下
  • 将来の事業拡大の機会損失

逆に、財務と税務を両立させる決算戦略を取れば、企業は健全に成長し、“強い決算書”を作ることができます。

節税と銀行評価を両立させる5つのポイント

  1. まず銀行評価を高める(営業利益の黒字、自己資本比率の維持)
  2. 継続的な効果がある節税策を選ぶ
  3. 来期の資金需要を見越して利益を残す
  4. 役員報酬は適正な水準に設定する
  5. 財務→税務の順番で考える

【今日からできるアクション】

  1. 直近3期の営業利益と自己資本比率を確認する
  2. 来期の資金需要(設備投資、採用など)を見積もる
  3. 中小企業投資促進税制など、継続効果のある節税策を検討する
  4. 役員報酬が業界水準と比べて適正か確認する
  5. 税務調査あんしん対策パックで節税と財務の両立戦略を専門家と一緒に立てる

これらを実践することで、あなたの会社は「税務にも強く、銀行からも信頼される企業」になります。

節税は大切ですが、それ以上に大切なのは、企業が持続的に成長できる健全な財務体質を作ることです。目先の節税にとらわれず、長期的な視点で経営判断を行いましょう。