みちくさ④ ギャンブルと税金

ギャンブルは資産運用!?

以前から気になっていた事件があります。

あるサラリーマンが競馬の馬券払戻金を申告していなかったとして脱税の罪に問われ検察から起訴されていた事件の公判で大阪地裁において判決が出されました。
一介のサラリーマンが競馬というギャンブルで得た利益を申告しなかったということで査察が着手し検察に告訴し、そして起訴されたというだけでも、ぶっ飛ぶような内容なのですが、金額もありえない額で、起訴された脱税所得金額はなんと約30億円、税額は5億7千万円といいますから、びっくりなんてものではないでしょう。

ところが、実際に手元に得た利益は1億4千万円でした。
どうしてこうなるかといいますと、所得の種類によって違うのですが、この場合は雑所得か一時所得かです。雑所得は収入から必要経費を差し引いた金額となります。

今回、国側は所得の種類は一時所得であると認定したため、収入金額からその収入を得るために要した費用を差し引いた額ということになります。つまり、当り馬券についてのみその馬券の購入費用は認めるが、はずれた馬券の購入費用は経費とは認めないと言うことになるわけです。天国と地獄の違いがあると思います。そのため、この事件の争点は脱税の事実ではなく、はずれ馬券は経費となるか否かということになっていました。これは、競馬を含めてすべてのギャンブルに係る獲得利益に対する課税の根源にかかわるとして注目されていました。

国側は、所得税法及び基本通達からも競馬の馬券の払戻金は一時所得になると例示されていますので、「一時所得の金額=総収入金額 ー その収入を得るために支出した金額 ー 一時所得の特別控除」ということになるわけです。この算式に当てはめれば、はずれ馬券は費用に該当しないということになり、算出された金額は「あっ!と驚く為五郎」となってしまいますが、当の本人はそんなギャグを飛ばす余裕はないはずです。
査察が着手し立件されたとしても潰れた企業はないと思いますが、今回のケースでは、国側の起訴どおりであった場合、企業であれは倒産、個人であれば自己破産になる可能性があるということです。

最終コーナーからゴールへ

競馬ファンは横暴な課税に対して怒り心頭なことでしょうということで、裁判結果がでました。
脅威の末脚でゴール寸前に差しきった感じでしょうか。申告をしなかったことに対する脱税は有罪。しかし、脱税額は本人の主張が認められ脱税所得金額1億4千万(税額で5千万円)とされました。有罪でも勝訴。そうだろうなぁ、焦点は金額の問題ですからね。

要するに本人の主張どおり「はずれ馬券」も経費として認めてもらったのだから大喜びなのでしょう。もし、これが自分なら同じ気持ちだと思います。
判決は、払戻金は一時所得である旨を前置きしながら、今回の事件については馬券の購入方法、回数、金額などから資産運用と同等なものと判断したようです。要するに、先物取引、FXと同等と位置づけたものでした。あくまで、個別判断で、今後、すべてのものに対応するものではないものです。しかし、ギャンブルも資産運用になる時代なのでしょうか。

時代劇なら、「是にて一件落着」となるのでしょうが、なんと検察側は控訴するそうです。よせばいいのに~。
仮に検察側のいう金額であっても納税することは無理!常識的に考えればわかるのではないでしょうか。
確かに脱税自体は許されることではないでしょうが、支払いきれない課税も吹っ掛けすぎではないでしょうか。とはいっても、場所が高裁に変わるため違う答えが出るかもしれません。

娯楽か娯楽の域を超えているか。まだまだ、目が離せない事件です。

事実と法律を結びつけるのは難しいですね。その人物の立場によりその事実の解釈判断は異なるということになるのです。この事件も、税務職員として見ているのと現在の税理士として見ているのとでは視点が違うのだろうと感じました。つまり、課税する側と防御する側の温度差に尽きるのです。